花粉症クエストでは、最近花粉症対策で注目を集めている花粉米とは何かを数回にわけてひも解いていく連載企画をお届けすることにしました。
『知っておきたい!花粉症対策に期待が高まる花粉米のすべて』
【シリーズ目次】
前回は、第1部「免疫のしくみと免疫療法」(Part 1)お伝えしました。今回はその続きの『Part 2』になります。
第1部 目次
1 「免疫」の意味
2 体を守る3つの防御壁
3 免疫のしくみ
4 花粉症はなぜ発生するのか
5 感作(かんさ)とアレルギー反応
6 免疫療法とは
7 アレルゲン免疫療法(減感作療法)
8 スギ花粉症向けのアレルゲン免疫療法(減感作療法)
9 まとめ
*1から5までが(Part 1)に、6から9までが(Part 2)の記事に掲載されています。
*(Part 1)はこちらをクリック
6 免疫療法とは
これまでのところで免疫のしくみの概要がおわかりいただけたかと思います。では次に「免疫療法」とは何かを見ていきましょう。
「免疫療法」とは免疫を抑制したり、逆に増進させたりする治療のことです。
アレルギーのように自分の体を傷つけるような異常な免疫反応があるときは免疫を抑制、減衰させる治療です。
一方、がんの治療では免疫を刺激、増強してして腫瘍を排除しようと試みる治療になります。インフルエンザワクチンといったワクチン治療も病原体に対する抗体を作って免疫を増強する手法です。
今回は免疫を抑制する方の免疫治療について述べていきます。
7 アレルゲン免疫療法(減感作療法)
アレルゲン免疫療法は、患者にアレルゲンエキスを投与し、免疫反応を示さない状態へと誘導することを目標とした、アレルギー性過敏症の免疫療法です。減感作〔かんさ〕療法ともいわれます。
アレルゲンエキスとは抗原を低濃度にして体に入れてもアレルギーショックなどが起こるリスクを下げたもの。
これを少量ずつ一定期間体に取り入れることによって、体に抗原に慣れさせて過剰な攻撃をしないように誘導していくわけです。
繰り返しになりますが、「感作」とは一度抗原が体内に侵入してくるとB細胞によってつくられた抗体(IgE抗体)が血液中を流れて皮膚や粘膜にいるマスト細胞と呼ばれる細胞の表面にくっついて待機している状態のことです。
感作された状態で、再び抗原(アレルゲン)が侵入してマスト細胞上の抗体(IgE抗体)と反応するとマスト細胞から、ヒスタミン、ロイコトリエンが放出されて様々なアレルギー症状をおこします。これが花粉症などの即時型アレルギー反応です。
アレルゲン免疫療法(減感作療法)で少しずつ抗原を取り入れていくと、体内にIgE抗体ではなく、IgG抗体という別の抗体が作られます。このIgG抗体は、抗原が体内に入ってきた時に、抗原より先にIgE抗体にくっつきます。つまりIgG抗体は、抗原とIgE抗体との結合を防いで、アレルギー反応をおこさない(ヒスタミンなどが放出されない)ように働いてくれるのです。
8 スギ花粉症向けのアレルゲン免疫療法(減感作療法)
スギ花粉症患者向けにもアレルゲン免疫療法(減感作療法)があります。
注射でアレルゲンを含む薬を体に取り入れる皮下免疫療法と舌の下で行う舌下免疫療法です。
2014年に舌下免疫療法が保険適用になり利用しやすくなったことや、自宅で服用できる点がメリットです。
今のところ12歳以上が対象ですが、数年のうちに対象年齢を下げても大丈夫な薬が出てくる見込みです。
舌下免疫療法の具体的な治療方法ですが、1日1回、少量のアレルゲンエキスの薬から服用をはじめ、その後決められた一定量を数年間にわたり継続して服用します。初めての服用は、医療機関で医師の監督のもと行い、2日目からは自宅で服用します。
毎日の服用方法はアレルゲンエキスの薬を舌の下に置き、定められた時間保持したあと飲み込みます。その後5分間はうがい・飲食を控えます。
この治療を開始する時期はスギ花粉の飛散がない6月から12月頃です。スギ花粉が飛散している時に治療を開始すると体が慣れていないにもかかわらず大量のスギ花粉を体に入れてしまうことになり、万が一アレルギーショックがあるといけないからです。
アレルゲンエキスの薬の服用は最低でも2年、できれば3年~5年が推奨されています。毎日継続することは大変ですが、正しく治療が行われると、くしゃみや鼻水、目のかゆみといった花粉症の症状を治したり、症状が完全におさえられない場合でも、症状を和らげ他の花粉症用の薬の減量が期待できます。
9 まとめ
第1話の最後に、第1話「免疫のしくみと免疫療法」の中にでてきたキーワードを整理しておきましょう。
「免疫」
体の外から入ってくる細菌やウィルス、異物、または変質した自己細胞(がん細胞など)を攻撃・殺傷・排除して、自分の体を守るはたらき
「獲得免疫」
体は感染による発病を3段階の防御壁を用いて防いでいる。第一が皮膚や粘膜、第二が誰にも生まれつき備わっている自然免疫、第三が獲得免疫で一度病原体などが体の中に侵入すると抗体がうまれてその病原体に対してのみ特殊的に働くもの。ここがで最後の砦で失敗するとその病気に感染し、発病
「抗体」
病原体や異物に対抗する物質
「抗原」
抗体が標的として攻撃する物質(病原菌や花粉など)
「感作」
一度抗原が体内に侵入した結果として抗体(IgE抗体)ができてアレルギー反応を発生させるための準備が整っていく状況
「アレルギー」
花粉や食べ物など本来は無害な物質に対して免疫が過剰に反応してしまった症状。感作された状況で再び抗原が侵入すると発症
「免疫療法」
免疫を抑制したり、逆に増進させたりする治療
「免疫寛容」
免疫反応を示さない状態
「アレルゲン免疫療法」(減感作療法)
患者にアレルゲンエキスを投与し免疫反応を示さない状態(免疫寛容)へと誘導することを目標としたアレルギー性過敏症の免疫療法
「舌下免疫療法」
スギ花粉症やダニアレルギー性鼻炎の治療法。アレルゲンエキスの薬を舌の下に毎日継続的に投与して免疫寛容を誘導
次回は第2部「遺伝子組換え技術を知る」をお伝えします。
(参照)
役に立つ薬の情報~専門薬学 | 薬・薬学・専門薬学・薬理学など