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【花粉米】知っておきたい!花粉症対策に期待の花粉米のすべて③「お米のすぐれた機能」(Part 2)

スギ花粉米
花粉症クエストでは、最近花粉症対策で注目を集めている花粉米とは何かを数回にわけてひも解いていく連載企画をお届けしています。

『知っておきたい!花粉症対策に期待が高まる花粉米のすべて』

【シリーズ目次】

第1部「免疫のしくみと免疫療法」Part 1    Part 2

第2部「遺伝子組換え技術を知る」Part 1    Part 2

第3部「お米のすぐれた機能」Part 1  Part 2

第4部「スギ花粉米ができるまで」Part 1  Part 2

第5部 「国民病のスギ花粉症対策に日本の農家が役立つことを夢見て」【インタビュー】Part 1  Part 2

前回は、第3部「お米のすぐれた機能」(Part 1)をお伝えしました。今回はその続きの『Part 2』になります。

 

花粉米のすべて

第3部「お米のすぐれた機能」(Part 2)

目次

1.舌下免疫療法のメリットと問題点

2.腸管免疫と経口免疫寛容

3.お米の機能

4.お米を利用した次世代型免疫療法

5.動物や人による安全性・有効性評価

6.まとめ

1から2までが(Part 1)に、3から6までが(Part 2)の記事に掲載されています。

(Part 1)はこちらをクリック

3.お米の機能

花粉症などのアレルギー症状は本来は無害な物質に対して免疫が過剰に反応して起こるものです。
それに対して「経口免疫寛容」という特徴をもつ体の中で最大の免疫システムである腸に、花粉は異物ではないと誤解を解くようにすればいいわけです。それには異物とみなされている花粉のアレルゲン物質を口から食べて腸まで届けて免疫寛容を働かせることが必要です。
ふつう、食べ物は腸に届く前に胃でほとんど消化されてしまいます。
ところが、口から食べて胃で消化されずに腸まで届く機能をもっているものがあるのです。それがお米です。

お米の構造を見てみましょう。

イネの種子から籾(もみ)をとったものを玄米といいますが、主に乳杯組織胚芽からできています。

花粉米

「イネの種子の電子顕微鏡的解析」より引用

胚乳組織イネ種子の主要成分を貯蔵する役割を担っています。
その胚乳組織には、人のエネルギー源であるデンプンを貯蔵するデンプン粒と貯蔵タンパク質を蓄積する2種類のプロテインボディ(PB)が存在します。

「イネの種子の電子顕微鏡的解析」より引用

イネの種子は,生まれてくるイネの成長のために貯蔵物質を蓄積しています。玄米中の約70%はデンプンですが,次いで多いのはタンパク質で、その割合は玄米中の6~8%です。そのタンパク質の大部分は貯蔵タンパク質として合成され、胚乳組織中に存在する2種類のプロテインボディ(タンパク質貯蔵顆粒)に蓄積しています。

花粉米

「イネの種子の電子顕微鏡的解析」より引用

遺伝子組換えでレタスやタバコの葉などに別の生物の物質(外来性タンパク質)を導入すると、導入した場所がレタスなどの栄養器官であるため、外来性タンパク質を分解してしまい、たくさん蓄積出来ないという問題があります。
一方、お米(イネ種子)を利用する場合,胚乳組織は自分ではなく次世代の成長のために栄養源を蓄積させる貯蔵器官であるため、遺伝子組換えで導入する別の生物の物質(外来性タンパク質)をプロテインボディに蓄積させることができれば、分解を受けるリスクから回避できます。

また、遺伝子組換えにレタスなどの葉を用いると、それを食べても胃で胃酸や消化酵素による分解を受け,腸まで到達しません。それに対してお米(イネ種子)のプロティンボディIは消化管で難消化性であることがわかっています。その性質を利用し、プロティンボディIの内部に花粉などのアレルゲンエキスを蓄積させれば、胃酸や消化酵素の分解のダメージを回避し、腸管まで届くことができるのです。
そして日本で広く栽培されている穀物のうちプロティンボディIがあるのはお米しかありません

まとめると、

お米のプロティンボディIというタンパク質貯蔵顆粒に、抗原である花粉のアレルゲンエキスを遺伝子組換えで蓄積させることができれば、

お米を食べるとアレルゲンエキスも胃で消化されずに腸まで届き、腸の免疫寛容(経口免疫寛容)を働かせることが期待できる。

免疫寛容が働けば、花粉など抗原とみなしていたものに対して体が攻撃しなくなりアレルギー症状が抑えられる。

これでお米がなぜ花粉症対策に効果的かおわかりいただけたかと思います。しかし花粉米はこのようなお米のすぐれた機能を生かしているだけではなく、もうひとつ工夫が仕込まれているのです。

4.お米を利用した次世代型免疫療法

第3部のPart 1舌下免疫療法の問題点として、スギ花粉そのもの、アレルゲンそのものを原料としている薬を治療に使うたため、1回あたり少量の薬で長期間の治療が必要になることを説明しました。

この点を解決するために、花粉米ではスギ花粉のアレルゲンそのものではなく、アレルゲンを改変したペプチドを用いることにしたのです。

ペプチドとはアミノ酸が2~50個程度つながってできた分子50個以上結合したものがタンパク質と呼ばれています。タンパク質はものすごく長い鎖状になっていますが、ポリペプチドというと鎖の長さがそれほど長くないものを指すことが多いようです。

スギ花粉の主要アレルゲン「Cry j1」「Cry j2」というのふたつのタンパク質があります。

「スギ花粉ペプチド含有米」は、「Cry j1」と「Cry j2」の中から主要7個のアミノ酸の塊(ヒトT細胞エピトープ)を連結させて作った「7Crpペプチド」を遺伝子組換えでお米のプロテインボディⅠに蓄積させます。
その蓄積量は玄米1gあたり2.5mg程度です。

花粉米

「スギ花粉ポリペプチド含有米」は、「Cry j1」を分解して別々にお米のアミノ酸の間にはさみ込み、「Cry j2」をアミノ酸の塊をシャッフルして並べ替え、それらを遺伝子組換えでお米のプロテインボディⅠに蓄積させます。遺伝子組換えでできたお米の「Cry j1」「Cry j2」両方の蓄積量は玄米1gあたり2mg程度です。

花粉米

「スギ花粉ペプチド含有米」「スギ花粉ポリペプチド含有米」のどちらも遺伝子組換えでお米に導入するアレルゲンは、もとのアミノ酸の構造を改変したペプチドであるため、スギ花粉の特異的IgE抗体と結合性が著しく低下します。つまりこれらのお米を食べてもアレルギーショックなどの副作用が減少するのです。

花粉米1gに蓄積されている改変型ペプチドは1gあたり2~2.5mg程度。
舌下免疫療法の薬「シダトレン」1mL「Cry j1」が『7.3~21μg/mL』の5分の1の分量が入っていますが、花粉米1gにはシダトレン1mLの約500倍以上の量の副作用が軽減された改変型ペプチドが入っていることになるのです。

このようにお米を利用した免疫療法はこれまで課題であった点を改善した新しいものであるため「次世代型免疫療法」と呼んでいます。

その重要なポイントをまとめると、

♦経口免疫寛容システムを利用

改変されたペプチド(アレルゲン)を「食べる」ことで経口免疫寛容が働き、抗原だった花粉が異物として認識されなくなる。

♦副作用の危険性を低減

アレルギーショックの原因はIgE抗体が抗原と結合することですが、アレルゲンの立体構造を改変すること(改変型ペプチド)で結合性をなくし副作用を抑制します。

大量に摂取可能

お米の胚乳組織にある難消化性タンパク質顆粒プロテインボディⅠに改変型ペプチド(アレルゲン)をたくさん蓄積させることができます。そして口から食べることで大量に摂取することが可能です。

プロテインボディ-Ⅰで改変型ペプチドが腸まで到達

これまでの経口免疫療法では抗原が胃や腸の消化酵素により分解されあまり有効ではありませんでした。一方プロテインボディⅠは消化酵素に強いためお米に蓄積された改変型ペプチド(アレルゲン)が分解されることなく腸まで届きます。理想的な薬物輸送システムといえます。

つまり花粉米は、

◊毎日ご飯を食べるだけ

◊数か月程度で効果が期待できる

◊副作用の危険性が低い

という次世代型免疫療法なのです。

5.動物や人による安全性・有効性評価

ここまで花粉米のすぐれた点をお伝えしてきましたが、私たちが花粉米を実際に利用するためには、いくつもの試験で安全性や有効性が確認されなくてはいけません。

動物での確認

「スギ花粉ペプチド含有米」についてはマウスとサルを用いて一定期間(マウス13週間、サル26週間)花粉米を接種しても異常が発生しないか、他のアレルギーは発生しないかなどの試験を行い、異常は起こりませんでした。

「スギ花粉ポリペプチド含有米」では導入されている改変型ペプチドのスギ花粉抗原特異的IgE抗体との結合性を調べる試験をマウスを利用して実施し、結合性は低い値となりました。

人での確認

人に対しても「スギ花粉ペプチド含有米」の安全性や有効性の試験(臨床研究)が2013年に行われました。
その結果は副作用はなく、血液検査ではスギ花粉抗原にたいして免疫寛容が誘導されていることが示されました。くしゃみ、鼻水、鼻づまりなどの症状については症状が軽減するという傾向が示されましたが、統計学的には十分な結果とはなりませんでした。

そこで2016年11月から大阪はびきの医療センター(旧:大阪府立呼吸器・アレルギー医療センター)及び東京慈恵会医科大学のふたつの医療機関において、「スギ花粉ペプチド含有米」の実際の効果や、効果を得るために必要な花粉米の量、摂取期間を調べる研究が行われることになりました。前回の研究の課題をふまえ、お米を食べる試験の開始時期を早めたり、複数年にまたがる研究を予定するなどの改善点をほどこして研究が行われてる最中です。

6.まとめ

第3部「お米のすぐれた機能」では、副作用が少ないように改変されたペプチド(スギ花粉アレルゲン)を遺伝子組換えでプロティンボディⅠに蓄積させた花粉米を食べると、プロティンボディⅠが胃で消化されずに腸まで届き、体で最大の免疫器官である腸で免疫寛容が働いて、その結果花粉症の症状が抑制される一連のしくみ「次世代型免疫療法」についてお話しました。

最後に第3部に出てきたキーワードをまとめておきましょう。

「アレルゲン免疫療法」

患者にアレルゲンエキスを投与し、免疫反応を示さない状態へと誘導することを目標とした、アレルギー性過敏症の免疫療法。減感作〔かんさ〕療法ともいう。

「舌下免疫療法」

「シダトレン」というスギ花粉を原料としたアレルゲンエキスの薬を舌の下に滴下する免疫療法。2014年に保険適用になったことやアレルゲンエキスの薬を自宅で服用できるのは大きなメリット。約3年にわたって毎日薬を服用しなくてはいけない。

「腸管免疫」

体の中で最大の免疫システムが腸管で全身のリンパ球の60%以上が腸管に集中し、抗体全体の60%が腸管で作らる。

「危険な病原菌やウィルスを排除する」「食品や腸内細菌に安全なものには寛容で、排除しない」という特徴をもつ。

「経口免疫寛容」

人にとって「外部から入ってくる食べ物」は、すべて自分の体とは異なる「異物」だが、これを攻撃したり排除していたら栄養がとれないので、口から取り入れるものだけは異物として排除しないようにでき上がったシステム。

「プロティンボディⅠ」

お米の中のタンパク質貯蔵顆粒。難消化性であるため、消化酵素で消化されにくい。

「改変型ペプチド」

スギ花粉の主要アレルゲン「Cry j1」「Cry j2」の構造を立体的に改変して副作用が起きにくくしたもの。

次回は第4部「花粉米ができるまで」をお伝えします。

【参照】

アレルゲン免疫療法ナビ

食生活と腸管免疫・アレルギー

腸内フローラ改善計画

リセットクラブ

イネの種子の電子顕微鏡的解析

米タンパク質の特性を利用した経口ワクチンの開発―医療用遺伝子組換え植物の開発の動向

農研機構

農研機構パンフレット「お米を食べて花粉症対策~バイオ技術による次世代型免疫療法~」