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【花粉米】知っておきたい!花粉症対策に期待の花粉米のすべて④「スギ花粉米ができるまで」(Part 1)

花粉米

花粉症クエストでは、最近花粉症対策で注目を集めている花粉米とは何かを数回にわけてひも解いていく連載企画をお届けしています。

『知っておきたい!花粉症対策に期待が高まる花粉米のすべて』

【シリーズ目次】

第1部「免疫のしくみと免疫療法」Part 1    Part 2

第2部「遺伝子組換え技術を知る」Part 1    Part 2

第3部「お米のすぐれた機能」Part 1   Part 2

第4部「スギ花粉米ができるまで」Part 1  Part 2

第5部 「国民病のスギ花粉症対策に日本の農家が役立つことを夢見て」【インタビュー】Part 1  Part 2

第1部では免疫について、第2部では遺伝子組換え、そして第3部では遺伝子組換えによるスギ花粉米の免疫療法についてお話しました。第4部ではそのスギ花粉米がどのようにしてできるのかをお伝えしていきます。

花粉米ができるまで

第4部「スギ花粉米ができるまで」

目次

1.改変型ペプチドとは

2.アグロバクテリウム法で遺伝子組換えイネを作出

3.花粉米の栽培

4.まとめ

1と2が(Part 1)に、3と4が(Part 2)に掲載されています。

1.改変型ペプチドとは

現在スギ花粉米には「ペプチド含有米」「ポリペプチド含有米」の2種類があります。
どちらも遺伝子組換えでお米に蓄積されるものは、スギ花粉のアレルゲンそのものではなく、アレルゲンのタンパク質を改変して副作用が起こりにくくしたペプチドですが、その内容は異なります。

スギ花粉の主要アレルゲンに「Cry j1」「Cry j2」というのふたつのタンパク質があります。

「ペプチド含有米」は、「Cry j1」と「Cry j2」の中から主要7個のアミノ酸の塊(ヒトT細胞エピトープ)を連結させて作った「7Crpペプチド」を遺伝子組換えでお米のプロテインボディⅠに蓄積させます。

花粉米

「ポリペプチド含有米」は、「Cry j1」を分解して別々にお米のアミノ酸の間にはさみ込み、「Cry j2」をアミノ酸の塊をシャッフルして並べ替え、それらを遺伝子組換えでお米のプロテインボディⅠに蓄積させます。

花粉米
このように「ペプチド含有米」「ポリペプチド含有米」のどちらも遺伝子組換えでお米に導入するものは、スギ花粉アレルゲンのアミノ酸の構造を改変したペプチドの遺伝子なのです。

ペプチドとはアミノ酸が2~50個程度つながってできた分子のこと。アミノ酸が50個以上結合したものがタンパク質と呼ばれています。タンパクはものすごく長い鎖状になっていますが、ポリペプチドというと鎖の長さがそれほど長くないものを指すことが多いようです。「ポリ」とは、多い、複数のという接頭語です。

では次に、この改変型ペプチドの遺伝子を遺伝子組換えでお米に導入し、花粉米の苗を作る方法をみてみましょう。

2.アグロバクテリウム法で遺伝子組換えイネを作出

STEP 1 アグロバクテリウムにスギ花粉改変型ペプチド遺伝子を入れる

アグロバクテリウムは細菌の一種で、植物に感染して自分の体内のある遺伝子の領域(プラスミド)をその植物(宿主)に導入して自分が生きてくために必要な養分を作らせます。この能力を活用した遺伝子組換えを「アグロバクテリウム法」といいます。スギ花粉米でもこの方法を用いています。
アグロバクテリウムにあるプラスミドと呼ばれる環状のDNAを取り出し、酵素を用いてその一部を取り除き改変型ペプチドの遺伝子を代わりに入れそれをアグロバクテリウムの中に戻します。そのアグロバクテリウムをお米に感染させて改変型ペプチドの遺伝子をその植物の中に導入するわけです。

花粉米 アグロバクテリウム法

【関連記事】

知っておきたい!花粉症対策に期待の花粉米のすべて②「遺伝子組換え技術を知る」(Part 1)

STEP 2 植物の万能細胞「カルス」を作る

お米をある植物ホルモンの中に置いておくと胚(植物体になる部分)が増殖して細胞の塊「カルス」ができます。これが人でいうiPS細胞のようなもので、将来に何にでもなることができる万能細胞です。カルスは分化することなく細胞の塊として増殖します。

花粉米 アグロバクテリウム法

「誰でも成功するイネの遺伝子組換え実験法」石黒・富澤より引用

STEP 3 改変型ペプチドの遺伝子が入ったアグロバクテリウムをふやす

改変型ペプチドが組み込まれたアグロバクテリウムを増殖させます。そしてその塊を液状化(懸濁)します。
このアグロバクテリウムにはすでに遺伝子組換えで改変型ペプチドの遺伝子が導入されていますが、同時に抗生物質耐性の遺伝子も導入されています。懸濁する液体の中には抗生物質が入れるので、遺伝子組換えが成功していないアグロバクテリウムは抗生物質に他する耐性がないのでここで死んしまいます。

アグロバクテリウム法「アグロバクテリウム法によるイネの形質転換」増本, 千都; 宮尾, 光恵 より引用

STEP 4 アグロバクテリウムをお米に付着させる

お米からカルスを取り分けて、それをアグロバクテリウムの液につけます。実際につける時間は数分程度。

花粉米 アグロバクテリウム法

「誰でも成功するイネの遺伝子組換え実験法」石黒・富澤より引用

STEP 5 アグロバクテリウムのプラスミドをお米に染み込ませる

液から取り出してカルスの外側に付着したアグロバクテリウムの中のプラスミドがカルス染み込んでいくのを待ちます。
プラスミドには改変型ペプチドの遺伝子が組み込まれています。

STEP 6 アグロバクテリウムをお米から取り除く

プラスミドがカルスに侵入したら、カルスから不要になったアグロバクテリウムを取り除き(除菌)ます。

「誰でも成功するイネの遺伝子組換え実験法」石黒・富澤より引用

STEP 7 カルスを選抜・増殖させる

アグロバクテリウムがとり除かれたカルスを別の植物ホルモンの培地で増殖させます。ここにも抗生物質が入っているので、遺伝子組換えが成功している細胞だけが増殖します。

花粉米 アグロバクテリウム法

「誰でも成功するイネの遺伝子組換え実験法」石黒・富澤より引用

STEP 8 カルスを植物体に再分化させる

再分化培地にカルスを入れて根や芽がでるようにします。ここには根や芽がでるような植物ホルモンが入っています。しばらくするとカルスにグリーンスポットという芽ができて、植物体に再分化します。
未分化の細胞が再度特定の細胞に分化することを「再分化」といいます。

花粉米 アグロバクテリウム法「誰でも成功するイネの遺伝子組換え実験法」石黒・富澤より引用

STEP 9 植物体を成長させる

再分化した植物体を植物ホルモンのない培地に置き換えて成長させます。

花粉米 アグロバクテリウム法

「誰でも成功するイネの遺伝子組換え実験法」石黒・富澤より引用

STEP 10 鉢上げする

苗の状態にまで成長したら鉢上げします。

こうやってできた花粉米の苗を水田に植え替えて稲穂が実るまで育成させます。次の章ではその経過を確認してみましょう。

(Part 2)に続く

*第4部の「3 花粉米の栽培」と「4 まとめ」は『Part 2』に掲載されています。

【参照】

「アグロバクテリウムによる遺伝子組換えイネの作出」農研機構 土岐精一博士

農研機構 遺伝子組換え関連情報

「誰でも成功するイネの遺伝子組換え実験法」石黒郁美・富澤貴寿

アグロバクテリウム法によるイネの形質転換