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高齢者も花粉症になる傾向、子供の感染症に有効な治療法は花粉症薬!?~日医大・松根教授に聞く

日本医科大学耳鼻咽喉科教授 松根先生 インタビュー

春の花粉シーズンがいよいよ到来です。国民病ともいわれる花粉症ですが、必ずしも花粉症に関する知識や治療法が多くの人に正しく理解されているとは限りません。そこでNPO法人「花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会」では 2月25日(日)に『花粉症の治療、ここに注目、ここが重要!!』をテーマに「第5回花粉症市民講座」を開催し、花粉症やアレルギーの専門家より予防や対策に役立つ情報を紹介します。

➡「第5回花粉症市民講座」の概要はこちら

第5回花粉症市民講座 花粉症の治療、ここに注目、ここが重要 

花粉症の舌下免疫療法や子供・高齢者の鼻炎症状と対策法に関するセミナー開催!

日本医科大学・松根彰志教授はNPO法人「花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会」の事務局長として会の活動に積極的に関与され、今回も講師として登壇されます。

「花粉症クエスト」では市民講座の開催に先立ち、花粉症の最近の傾向や知っておくべき治療法など、研究と臨床の第一線でご活躍する松根先生にお話をお聞きしました。

1.NPO法人「花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会」とは

Q:松根先生は、日本医科大学大学院教授で当NPO法人理事長の大久保公裕先生とご一緒に「花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会」を設立されたとお聞きしています。設立にいたった背景を教えてください。

大久保先生も私も耳鼻咽喉科学を専門とし研究や臨床を行っていますが、地域の医療機関に集まる疾患の情報や市民の患者さんのニーズを大学の研究に生かしたい、一方、アカデミアの研究成果を地域の医療現場に還元したいという思いで、大学などの教育、研究機関と実地診療の第一線を担う医療機関との連携による啓蒙活動、研究の推進、支援を行うNPOの設立をめざすこととなりました。

「花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会」のビジョン

「花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会」のビジョン

➡大久保理事長の講演

日医大・大久保公裕先生に教わる!子どもの花粉症の原因、特徴、治療薬

2.花粉症症状の傾向と対策

●高齢者になって花粉症になるケースが増えている

Q:東京都が10年ぶりに行った花粉症患者実態調査で、都民の約半数が花粉症を患っており10年前と比べて約20ポイント増加していると昨年末に発表されましたが、最近の花粉症の特徴はどのようなものですか?

高齢者で新たに花粉症を発症する人が増えていることです。

アレルギー症状は身体で花粉アレルゲンなどの特異的IgE抗体が産出されることに影響を受けます。一般的には抗体の産出能力は年齢とともに衰えるのですが、近年では年齢に比して身体の若い高齢者が増えており、抗体の産生能力を維持している。そういう方たちの中で花粉症を発症するケースが増えていると感じています。

例えば、脳は老化がみられるが抗体再生能力は維持されているような高齢者で、片付けが上手にできずに汚れた部屋で過ごしているうちに花粉症やダニアレルギーになってしまう方もいるように思います。

Q:若い時から花粉症の人が年をとると症状に変化はありますか?

高齢者は若い時と比べれば免疫反応が弱くなるので、昔よりは花粉症の症状が軽くなるはずです。

●花粉症の低年齢化も

Q:子供の花粉症に顕著な傾向はありあすか?

これまで花粉症が発症するのは高校生、大学生のようなティーンエイジャーが多数でした。しかし最近では小学生、中学生でも花粉症になる子が増えています。

ダニアレルギーは以前より小さい子に多く発症がみられましたが、花粉症でも同じような傾向になっています。

Q:なぜアレルギー発症が低年齢化傾向なのでしょうか?

環境要因が大きいと考えています。

日本も経済格差による二極化が指摘されていますが、極端すぎるほど清潔や栄養に神経質になる家庭がある一方で、家の中にダニやホコリ、プラスチックなどの人工的なごみが散らかっている家庭や、偏った食生活になっている家庭も増えているのではないでしょうか。

同じ“汚い”でも自然由来であれば免疫機能にプラスに作用することもありますが、有機溶剤やプラスチックごみなど人口的なごみはアレルギー発症の原因になります。

また食事は腸内細菌叢に大きく影響します。免疫細胞は腸に集中しているので、腸内環境のバランスが乱れると免疫機能にも悪影響です。

●口腔アレルギー症候群に注意

Q:一般の人が見落としがちな花粉症の症状はありますか?

特定の果物を食べると口がヒリヒリしたり口が腫れる症状が起こることがあります。これを口腔アレルギー症候群といいます。花粉症の人が原因となる花粉のアレルゲンたんぱく質と似ているたんぱく質を持っている果物などを食べると、体の免疫機能が誤解して排除しようと反応して起こるものです。

Point! 花粉と関連のある食べ物の例

スギ・ヒノキ:トマト・メロン・モモ・スイカ・キウイなど

ブタクサ:ライチ・メロン・スイカ・キュウリ・ズッキーニ・バナナなど

イネ科(カモガヤやハルガヤ):メロン・スイカ・トマト・ジャガイモ・バナナ・オレンジ・セロリなど

ヨモギ:ライチ・セロリ・ニンジン・セリ科のスパイス・モモ・キウイ・カモミール・トマト・ジャガイモなど

ハンノキ・シラカバ:リンゴ・モモ・梨・びわ・さくらんぼ・ニンジン・セロリ・クミン・コリアンダー・アーモンド・クルミ・ヘーゼルナッツ・大豆・もやし・豆乳・キウイ・トマト・ジャガイモ・甘草・当帰など

12月、1月の冬の時期に花粉症の症状が出るとスギ花粉が早い時期から飛んでいると思っている人が多いのですが、実はハンノキが原因の花粉症の可能性があります。

ハンノキ花粉症の人は豆乳アレルギーを併発することがあり、健康によいと思って豆乳を積極的に飲んでいたら体調を崩したということもあるので注意してください。

Q:アレルギー症状の原因が何かをつきとめるにはどうしたらいいですか?

原因を特定するためには血液検査や皮内テスト(注:アレルゲンエキスをほんの少し注射するテスト)などのアレルギー検査方法があります。

ところが、まれに血液検査や皮内テストで陰性(注:アレルギーではない)と結果がでても、鼻でのみアレルギー反応をおこす「局所アレルギー反応性鼻炎」が起こることがありますが、このメカニズムはまだはっきりと解明されていません。

●花粉症と遺伝の関係

Q:花粉症は遺伝しますか?

花粉症と遺伝は関係するといって間違いありません。両親のどちらか、または両方が花粉症の場合、一定のパターンで子供に花粉症の素因が引き継がれます。子供に素因が移ったとしてもそれだけで花粉症が発症するわけではありません。環境や食べ物などの誘因があると発症するのです。

3.花粉症の治療法

●花粉症と蓄膿症(副鼻腔炎)の関係や治療法

Q:花粉症の人は蓄膿症(副鼻腔炎)になりやすいのでしょうか?

15歳以上の成人でアレルギー性鼻炎がある人の副鼻腔をレントゲンで撮ると約3割の人の副鼻腔に影がある、いわゆる蓄膿症になっているというデータがあります。

15歳未満の子供の場合だと、その割合が4割から5割にあがってきます。アレルギーを持っている子供の方が蓄膿症になりやすのです。

それは子供の顔面の骨格は未発達で構造的に炎症が周囲に波及しやすいことも原因のひとつですが、特に小学生未満の子供の場合免疫応答が脆弱であることから、ウイルスや肺炎球菌、インフルエンザ桿菌(注:インフルエンザウイルスとは異なる病原体)などの細菌に感染しやすいのですが、中でもアレルギーをお持ちのお子さんの方が感染しやすく、急性の小児副鼻腔炎になりやすいのです。

Q:どのような治療が効果的ですか?

蓄膿症と思われるお子さんのケースでも抗生物質だけでなくアレルギー性鼻炎の治療薬も一緒に処方しています。そして蓄膿症の症状が治まった後でもアレルギー性鼻炎薬だけは1カ月ぐらい継続して服用してもらいます。

実は子供が感染症を繰り返して発症する原因はアレルギー体質である可能性が高いのです。感染症の原因となる細菌の増殖を止めるだけでなく、一緒にアレルギー症状を抑えると、症状が非常に安定します。

アレルギーの治療薬としては、ロイコトリエン受容体拮抗薬も用いますが、最近では抗ヒスタミン薬で副作用の少ない安全な種類も増えてきたので、抗ヒスタミン薬を用いるケースが多いです。

●注目している花粉症薬

Q:先生がよく処方する花粉症の薬はどのようなものですか?

2016年に発売になったビラノアとデザレックスは、昨年12月から長期処方もできるようになりました。効果も評価していますが、比較的安価なので患者さんに負担が少なく、今シーズンはよく処方します。ただし、両方とも小学生までは処方不可です。

昨年末にはルパフィンという新しい薬が出ましたが、まだ2週間分しか処方できず、長期処方ができないことが難点です。

また、症状がひどく強い効き目の薬が求められるときにはディレグラを使うケースが多いです。ディレグラには血管収縮剤が入っているので短期間でかなり重症の鼻づまりにも効果を期待できます。ただし12歳以上が対象です。ディレグラは比較的価格が高めなので、例えば治療の最初の5日から10日はアレルギー性鼻炎に対する薬物治療の導入としてディレグラを用い、そのあとはビラノアやデザレックスを用いるようなパターンも最近よく使う選択肢の1つです。

●抗ヒスタミン薬は寒暖差アレルギーにも

Q:花粉症の鼻水と症状が似ている寒暖差アレルギーに治療法はありますか?

抗ヒスタミン薬は寒暖差アレルギー症状にも効果を期待できます。急な温度差がきっかけとなり鼻水などが起こる寒暖差アレルギーは、アレルギーと名がついているものの、過剰なアレルギー反応ではなく自律神経の乱れが原因ですが、発症しているときはアレルギー疾患と同じく肥満細胞からヒスタミンが分泌されているとのデータもあり、症状がひどいときにはアレグラFX、クラリチンEX、アレジオン20などのヒスタミンをブロックする市販の抗ヒスタミン薬を服用してみても良いでしょう。無効の時は、お近くの耳鼻咽喉科専門医にご相談下さい。

●スギ花粉米について

Q:農研機構が開発したスギ花粉米をどうお考えですか?

最初にスギ花粉米の話を聞いたときから日本人に適した“食べる舌下免疫療法”のようなものだと思い関心を寄せていました。動物や人での臨床研究の結果を聞いて医学的には問題のない、有望な手法だと思っています。

スギ花粉米の実用化がなかなか進まないのは医学的な問題というより、社会的なハードルがあるのだろうと推測しています。実用化される場合、医師の管理のもと薬として処方される方がいいのか、食品とすべきなのかは、今後大規模臨床試験に基づいて副作用などの問題がないことを確認したうえで判断したらよいと思います。

➡花粉米の生みの親、慈恵医大・斎藤教授インタビュー

花粉症の症状の根治・緩和に副作用が少ない「スギ花粉米」はスギ花粉症対策食品として実用化を【インタビュー】

●花粉症のオンライン診療について

Q:花粉症にオンライン診療は向いていると思いますか?

オンライン診療は花粉症の舌下免疫療法に向いている治療法だと思います。舌下免疫療法で副作用がでるのは大概治療を始めてから2~4週間の間です。よって最初の導入時には対面診療を行い、維持期の様子などもしばらく観察してのちにオンライン診療のシステムを組み込むことはあってよいと思います。

一方、アレルギー性鼻炎薬を処方するようなケースでは、患者さんの状態や事情を鑑みて、薬を2か月分のように長期処方することも場合によってはできるので、オンライン診療せずとも対応できることが多いのが実態です。

➡オンライン診療とは

特集!花粉症のオンライン診療とは~①広がる遠隔診療は花粉症治療にも【しくみや基本】

4.松根先生も登壇するセミナー

NPO法人「花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会」では、2月25日(日)に「第5回花粉症市民講座~花粉症の治療、ここに注目、ここが重要!!」を開催します。

松根先生も「子供や高齢者の鼻水とその対策」をテーマにご講演なさいます。質問コーナーも設けられていますので、松根先生からいろいろなお話を直接お聞きできるセミナーです。

➡セミナーの詳しい情報はこちら

花粉症の舌下免疫療法や子供・高齢者の鼻炎症状と対策法に関するセミナー開催!

➡セミナーの申し込みはこちら

申し込み専用ページ(http://hanamizu.jp/moushikomi20180225)

●松根先生のプロフィール

大阪府大阪市出身

  • 1984年 鹿児島大学医学部医学科 卒業
  • 1988年 鹿児島大学大学院医学研究科 博士課程 修了
  • 1988年~1990年米国ピッツバーグ大学医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 留学
  • 2000年 鹿児島大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科 助教授 (2007年より大学院准教授)
  • 2011年~日本医科大学武蔵小杉病院 耳鼻咽喉科 部長(臨床教授)
  • 2015年~日本医科大学医学部 耳鼻咽喉科学 教授