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花粉飛散測定の現状と課題、ならびに花粉による全身への影響の検討~千葉大学大学院・岡本美孝教授(寄稿)

国民病といわれるスギ花粉症。スギ花粉の飛散時期には複数の団体から飛散情報が提供されますが、花粉飛散量と症状との関係を正しく知っていれば、花粉症対策の向上に役立ちます。

ここでは、千葉大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学 岡本美孝教授の寄稿「花粉飛散測定の現状と課題、ならびに花粉による全身への影響の検討」をご紹介します。この寄稿は、2018年7月21日に開催された「第49回日本職業・環境アレルギー学会」で岡本美孝教授が講演された内容を、一般向けにわかりやすく解説されたものです。

《寄稿》「花粉飛散測定の現状と課題、ならびに花粉による全身への影響の検討」

千葉大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学 岡本美孝教授

1.花粉飛散と鼻症状

花粉飛散測定「ダーラム法」とは

空中花粉飛散の測定には、国内では通常ダーラム法と呼ばれる方法が用いられています。重力法とも言われ、ワセリンを塗ったスライドグラスを図1のような円盤に挟まれたところに24時間設置し、その後に回収してスライドグラス上の花粉を染色後に検鏡してカウントをします。1平方cm当たりのカウント数が前日の花粉飛散数として表現されます。

シーズンに初めて1個以上/cm2花粉飛散が続いた日の最初の日を飛散開始日とし、0個の測定が3日続いた日の前日を花粉飛散終了日とすると定義されています。

(図1)

ダーラム法とは 国内における一般的花粉測定方法 千葉大学・岡本美孝先生

・花粉飛散数と出現する症状の強さとの関連性

—花粉飛散が多い年は強い症状を示す患者さんが多い

花粉飛散数と出現する花粉症の症状の強さの関連については明らかにはなっていません。症状が出現すれば当然治療介入があることから検討そのものが容易ではありません。しかし、近年国内でも治療法の開発にはプラセボ対照比較試験が行われ、プラセボ群には原則として救済薬の投与以外には治療は行われていません[プラセボというのは薬効の無いもので、検証したい薬剤と色や形態などが識別できないように作られています]。

特に千葉大学で行ったスギ花粉舌下免疫療法の有効性を検討する比較試験、あるいはその後の製薬企業による臨床第3相治験では、シーズンを通しての詳細な鼻症状が記録されています。実際には救済薬はほとんど使用されていませんでした。プラセボ効果を無視することは出来ないものの、日ごとのプラセボ群の患者さんの鼻症状の強さと花粉飛散数の関連を検討することはシーズンに亘る花粉飛散数と花粉症の鼻症状の強さの関連を明らかに出来るものと考えられます。

図2には2007年から2012年までに千葉大学医学部の屋上で測定したスギ花粉飛散数と、プラセボ投与群で見られた鼻症状との関連を示しています。年によって飛散する花粉数、飛散パターンは大きく異なり、花粉飛散が多い年は強い症状を示す患者さんが多く、軽症者が減って中等症、重症症例が増えています。

(図2)

2007年から2012年までに千葉大学医学部の屋上で測定したスギ花粉飛散数と、プラセボ投与群で見られた鼻症状との関連 千葉大学・岡本美孝先生

—花粉飛散開始日を境に症状が悪化

一方、花粉飛散開始日は矢印(上記の図2)で示されていますが、いずれの年もこの日の前からすでに一定の症状を示す患者さんがみられています。少量の花粉飛散がすでにあって、そのために誘発された症状とも考えられますが、図には示していませんが、症状の記録を始める1月初めから同じ程度の症状は常に続いており、花粉症による症状というよりむしろ非特異的な鼻症状と考えられます(鼻の病気がない正常な人でもくしゃみが出たり鼻水が出たりすることはよくあります)。しかし、いずれの年でも花粉飛散開始日を境に症状の悪化(軽症例の減少)がみられており、この時から有効な花粉症の治療開始が必要であると考えられます。すなわち初期療法です。症状が軽い時から開始する初期療法は花粉飛散ピーク時の症状の改善にも有効で強く推奨されています。即効性が高い抗ヒスタミン薬などが推奨されていますが、ダーラム法により規定される花粉飛散開始日は確かに治療が必要になる日を示していて有効なものと考えられます。

さて、図3は1日当たりの花粉飛散量を横軸に取り、縦軸に鼻症状について中等症ならびに重症者の割合を取ったものですが、同じ花粉飛散量を浴びた日でも中等症以上の患者さんが出現する割合は日によって決して同じではなく結構異なっていることがわかります。

(図3)

—飛散初期は鼻症状の強さと花粉飛散数に高い相関

一方で、この花粉飛散量と中等症以上の患者さんが出現する割合との間にはある程度一定の関連がみられることもわかります。

1日100個のスギ花粉飛散がみられた日には大体5割の患者さんが中等度以上の症状を呈することがみられました。花粉飛散が特に少なった2010年を除いて、飛散開始後1日100個の花粉飛散がみられるまでには累積としておおよそ1000個の飛散がみられています。そこで、飛散開始後はじめて100個飛散するまでを飛散初期、その後最後に100個飛散するまでを飛散中期、その後飛散終了までを飛散後期として鼻症状の強さとの関連をみると(図4)、興味深いことに飛散初期は鼻症状の強さと花粉飛散数には高い相関を認めましたが、飛散中期、後期には関連は認めませんでした。時に飛散ピークとなる飛散中期には症状の強さは飛散の大小に関わらず大きな変動がみられていません。このことは初期は花粉飛散の量に伴って症状の増悪がみられますが、ある程度飛散量が増えてくると飛散量に関わらず症状はほぼ一定してくるといった結果でした。図には2008年の解析結果を示していますが、検討した2007年、2009年、2010年、2011年とも同様の結果でした(詳しくは論文発表をしています)。

(図4)

花粉飛散と症状の関連:プラセボ投与群 千葉大学・岡本美孝先生

2.ライフスタイルによる花粉曝露量の違い

同じ地域に住んでいても生活様式により一人ひとりが受ける花粉の曝露量には大きな違いがあることが考えられます。花粉測定は前述したダーラム法ではリアルタイムでの花粉測定は困難ですが、自動花粉測定器といって、自動的に一定の大気を吸い込んで、レーザー照射などを利用して30ミクロン前後の大きさで表面が平滑で球形のものを花粉として、他の空中に浮遊する粒子と識別する機器が国内では数機種開発されています。ただ、いずれも空中浮遊粒子との識別に問題があり、その使用、結果の評価は慎重に行う必要があります。

私たちは、神栄という自動測定機についてその機器の花粉誤認率を計算して測定精度を向上させる手段を開発しました。設置した場所ごとにその設定を時間をかけて行う必要があり手間がかかる欠点があります。ただ、これを関東地域に多数設置してその地域内でのリアルタイムでの花粉飛散が可能としたことがあります(図5)。そして、自分の位置情報を示すglobal positioning system(GPS)機能を有する専用の携帯電話を常に携帯していただくことに了解をした25名の患者さんに参加していただいて、花粉飛散期に日々の移動地域、その地域での花粉曝露量を解析して個々の患者さんが花粉飛散期に毎日の移動の中でどのくらいの量の曝露を受けた花粉曝露量の検討を行いました。30分以上GPSで移動が認められない場合には屋内にいると判定しています。

その結果、個々の患者さんでのシーズンの花粉曝露量は、最高で10倍の差が認められ、室内での勤務が多い方、屋外での勤務、作業が多い方で大きな違いが認められました。すなわち、同じ地域に住んでいる方でも、花粉の曝露の量は同じではなく、ライフスタイルにより大きく異なるという結果でした。

(図5)

個々人の花粉曝露量の測定 千葉大学・岡本美孝

3.スギ花粉飛散の下気道への影響

スギ花粉による喘息は非常に稀といわれています。その理由は花粉の粒子径が大きいので下気道に侵入しないためと考えられています。しかし、スギ花粉が原因となってはいない多くの喘息患者さんでも、スギ花粉症の合併があるとスギ花粉飛散期には喘息症状の悪化がみられやすいことが知られています。千葉大学には花粉飛散室という、一定量の花粉を精度高く曝露を行い治療の評価に有効な施設があります(図6)。

(図6)

千葉大学の花粉飛散室

喘息の合併がないスギ花粉症の患者さんに花粉飛散室でスギ花粉の曝露試験を受けて戴き、鼻症状だけではなく咳などの下気道の症状の評価、さらに花粉曝露前後の呼吸機能、呼気中の一酸化窒素(NO)について比較検討を行いました。その結果、花粉曝露前に呼気NOが高いスギ花粉症患者さんではスギ花粉曝露後に1秒率の低下、呼気NOの更なる増加がみられました。呼気NOは下気道の炎症反応を反映していると考えられるので、この検討結果はすでに喘息を含め下気道に炎症を合併している方では、花粉曝露によって下気道の炎症反応の増強が生じてしまうこと示しています。その悪化の機序としては、鼻での花粉症による鼻閉の影響、あるいは鼻で産生された花粉症によるメディエーターが直接、または血液を介して下気道に影響する可能性が考えられます。