花粉症の症状といえば、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、目のかゆみが代表的ですが、咳や喉《のど》のイガイガの症状で悩む人も多くいます。しかし、この喉の症状は花粉によるアレルギー症状なのでしょうか。そうであるとしたら、そのメカニズムはどのようなものか?
ここでは、千葉大学大学院 医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学の岡本美孝教授が「日本職業・環境アレルギー学会総会・学術大会」(2018年7月20~21日開催)で講演された「花粉の影響などによる喉頭アレルギー」の概要についてご紹介し、花粉症と喉の症状との関係性について掘り下げていきます。
岡本美孝教授
環境アレルギー学会でのご講演内容に関する寄稿はこちらをご覧ください。
1.喉頭アレルギーを検証する
「喉頭《こうとう》」は喉仏のあたり(喉の手前の部分)を指し、呼吸の通り道で、声帯を振動させて発声にも働いています。「咽頭《いんとう》」は鼻の奥、舌の奥、喉頭の後ろで食事の通り道でもあり、食道につながる部分です。
「喉頭アレルギー」とは、慢性的に乾いた咳(*咳嗽《がいそう》という)やイガイガといった違和感・異物感を感じる症状(*喉頭異常感症)が主な症状です。
「確かに花粉症の患者さんには高率に喉頭アレルギーが合併するとされています」と岡本先生は指摘します。
「喉頭アレルギーはスギ花粉よりもヒノキ花粉でよく引き起こされるともいわれていますが、
・本当に喉頭でアレルギーが起こりうるのか
・喉頭アレルギーに花粉症の影響はあるのか
・本当にヒノキの方が喉頭アレルギーを生じやすいのか
は明らかになっていませんでした。
そこで、これらを検証するために「花粉飛散室」を用いていくつかの試験を行いました」。(岡本先生)
試験の概要
ヒノキ花粉にも陽性反応を示すスギ花粉症患者25名に、花粉飛散室で2日間にわたってスギとヒノキ花粉をそれぞれ別々に曝露してもらい、鼻や喉頭の症状を調査した
Point! 花粉飛散室とは
千葉大学 花粉飛散室
花粉飛散室とはスギやヒノキなどの花粉を均一の濃度で飛散できる施設。季節に関わらず一定の環境下で症状誘発をすることができる。新薬、花粉症対策の食品や商品などの試験に主に利用される。千葉大学には国内最大規模である最大50名の被験者を収容できる花粉飛散室がある。
2.ヒノキは喉の症状が出やすい?
スギ花粉とヒノキ花粉による鼻炎症状を比較すると、同じ飛散量であればスギの方が症状が強くでる傾向がありました。よって今回の調査では、ヒノキをスギよりも1.5倍に増量して2つの花粉による鼻と喉の症状の比較が行われました。
「調査結果をみると、花粉の量を変えると鼻の症状スコア(*)はヒノキもスギもほとんど差はありませんでした。
一方、喉頭の症状スコアでは、確かに試験1日目においてはヒノキの方が強く症状が出ていましたが、2日目になるとほとんど差はでていない。
症状を比較する上でわかりやすい指標として咳や咳払いの回数のカウントも行いましたが、それにおいてもヒノキとスギで差はほとんど認められませんでした。
今回の調査を見る限り、ヒノキ花粉だからといって喉頭アレルギー症状が強くでる傾向はありませんでした。内視鏡の検討も行いましたが、明らかな所見を確認することはできませんでした」と岡本先生。
*症状スコア:「鼻アレルギー診療ガイドライン」が策定したもので、最重症4点、重症3点、中等症2点、軽症1点というように症状をスコア化
3.鼻の症状は喉の症状に影響する?
鼻の症状は喉頭アレルギーに影響するのでしょうか。それを調べるために、患者さんに鼻に詰め物(鼻栓)をしてヒノキ花粉に曝露してもらう調査が行なわれました。
「最初の試験では、鼻栓をする患者さんと鼻栓をしない患者さんに分けて、ヒノキ花粉に2日間暴露してもらいました。
鼻栓をする目的は、ヒノキ花粉による鼻での花粉症を発症させないようにするためです。その上で喉の症状に変化が出るのかを試験しました。
その結果を見ると、試験日1日目は鼻栓があり口呼吸している患者さんの方が、すなわち鼻の花粉症状がない患者さんの方が喉頭の症状が強くでました。2日目になると両者にほとんど差はなくなり、咳や咳払いの数で比較しても有意差はみられませんでしたが、喉頭の症状が起こるのに鼻の症状が必ずしも必要ではないと思われます」。(岡本先生)
「次に、全ての患者さんに鼻栓をして口呼吸しかできない状態にし、患者さんにはヒノキ花粉に曝露しているか、曝露していないかを明かさないままで試験を繰り返し、喉頭の症状の比較を行いました。
結果は、花粉に暴露している状態の方が喉頭の症状が強く認められました。
しかし同時に、花粉非曝露の状態でも鼻栓をすると時間の経過とともに少しずつ喉頭の症状が強くなっていることがわかります。
つまり、鼻閉状態、口呼吸状態だけで花粉の有無に関係なく喉の症状は起こり、花粉の曝露があればさらに症状が強くなることが確認できました。要するに、鼻での花粉症が無くても、鼻閉による口呼吸が生じると一定の喉頭の症状は出現するということがわかりました」。(岡本先生)
「さらに、鼻栓をした患者さんの血清ECP値(*)の変動をみてみました。
すると、花粉に曝露していない時はECP値が上がっていきませんが、曝露すると値が上昇します。鼻で花粉症が誘発されなくても、花粉が咽喉頭に侵入すれば、確かにそこでアレルギー反応が生じ症状を引き起こしていると考えられます」。(岡本先生)
*血清ECP値:血清中のECPはアレルギー反応が生じると産生され血液にも増加してくるとされる
4.まとめ
「今回の試験で、ヒノキ花粉が喉頭症状を起こしやすいかは明らかではありませんでしたが、花粉が飛んでいなくても鼻を詰め口呼吸になると、咳などの喉頭症状がある程度強く認められたことは驚きでした。つまり、鼻閉状態が喉頭の症状にかなり影響するということです。
また、鼻栓をして鼻の花粉症の症状がない状態で、花粉が喉に直接侵入すると喉頭にアレルギー症状が発症することがわかりました。よく調べてみるとそのときの主な症状は喉のかゆみでした。
結論としては、
・喉頭アレルギーは存在する可能性がある
・花粉に直接関係なくても、鼻閉そのものも喉頭の症状の発現に影響している
といえます」。(岡本先生)
岡本先生の講演から、花粉によって喉頭でアレルギーが生じうること、さらに鼻づまりがあると喉の様々な症状が起こりやすいこと、また、喉のイガイガや乾いた咳の症状が長引くときは、花粉症など鼻のアレルギー性鼻炎が関与している可能性があり、きちんと原因アレルギーの検査やアレルギーの治療を受ける必要があることがわかりますね。
岡本先生、貴重なお話をありがとうございました。
(記事中のスライド画像は岡本先生の講演から引用したものです)
♦岡本美孝先生のプロフィール
千葉大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頚部腫瘍学教授。医学博士。
- ・1979年秋田大学医学部卒。
- ・1985年秋田大学大学院医学研究科卒、ニューヨーク州立大学バッファロー校でリサーチフェローとして粘膜免疫学を研究。
- ・1988年秋田大学医学部耳鼻咽喉科助手。
- ・1990年同大学医学部耳鼻咽喉科講師。
- ・1996年山梨医科大学耳鼻咽喉科教授。
- ・2002年より現職。
- ・2011年より2017年まで千葉大学医学部附属病院副病院長を兼任。
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