12月4日、消費者団体「食のコミュニケーション円卓会議」主催の「スギ花粉症を治す・予防する花粉米セミナー2017」が開催されました。花粉症クエスト取材班もセミナーに参加しましたので、その様子を2回にわけてレポートします!
今回は、第1部「基調講演」の大阪はびきの医療センター・橋本章司先生、東京慈恵会医科大学・浅香大也先生の講演の内容をお伝えします。
花粉米のことを詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
➡花粉米とは?
【花粉米】知っておきたい!花粉症対策に期待の花粉米のすべて④「スギ花粉米ができるまで」(Part 1)
➡花粉米セミナーレポート・パート2(後編)はこちら
『お米でスギ花粉症を治す・予防する花粉米セミナー2017』レポート~花粉米は薬それとも食品?
1.冒頭は富岡議員の祝辞から
セミナーの開催にあたって、食のコミュニケーション円卓会議代表の市川まりこ氏より、衆議院議員の冨岡勉氏からの祝辞が紹介されました。
冨岡議員は忙しいスケジュールをやりくりして、セミナー会場になんとか足を運ぼうとしましたが、どうしても都合がつかず、このような祝辞になったそうです。
冨岡議員は医師で文部科学委員長を務められているだけに、国民病といわれる花粉症疾患に対する問題意識が高く、その解決の一助になりえる花粉米に対する応援のメッセージが込められていると、市川氏から説明されました。
2.花粉米は根本的治療法~橋本先生
基調講演の最初は、大阪はびきの医療センター・臨床研究センター長の橋本章司氏で、「花粉症のメカニズムと花粉米の安全性有効性のメカニズム」というテーマのお話でした。その概要をご紹介します。
・花粉症患者は潜在的患者を含めると6000万人とも
現在花粉症患者は3000万人ともいわれていますが、まだ発症していないが、すでに感作していて花粉症になる可能性のある人を含めるとその2倍、つまり6000万人もの数になり、まさに国民病といって間違いありません。
・根本的治療がない?
花粉症の治療には、いくつかのタイプの治療薬やシダトレンを使った舌下免疫療法などがありますが、薬は対症療法であるし、舌下免疫療法もあくまで継続的に服用して発症を抑え込む効果を期待するもので、スギの特異的IgE抗体をなくす根本的治療法がないのが実状です。
・アレルギーは皮膚から起こり、口から抑えていく
2008年に「食物アレルギーにおける二重抗原曝露仮説」が発表されました。それは、アトピー性皮膚炎になる赤ちゃんは口から小麦や卵などを食べたことが原因とそれまで考えられていましたが、そうではなく、皮膚のバリアー機能が弱ったところからアレルゲンが侵入して感作・発症し、一方、口からそのアレルゲンを摂ることで腸管免疫寛容が起こり、アトピーを抑えていく、というものでした。
2017年の研究発表でも、その説が裏付けられています。従来の皮膚の治療法にアレルゲンの経口投与を併用すると、アレルギー発病を抑制するのです。
・シダトレンは発症を抑え込む
舌下免疫療法はシダトレンというスギ花粉エキスを口から摂り入れます。それは胃に入るのではなく血液に入ります。その効果は、IgE抗体を減らすものではなく、花粉抗原とIgE抗体との結合や症状が起こるのを抑え込むものです。またアレルゲンそのものを口に入れるので、摂り入れすぎるとアレルギー反応、重篤なケースではアナフィラキシーショックを起こしてしまいます。
・スギ花粉米はIgE抗体を減らす
スギ花粉米を毎日食べると腸管免疫寛容がおこり、免疫細胞のひとつT細胞がIgE抗体を作れという指令を出さなくなります。すると時計の針が戻っていくように、スギ花粉特異的IgE抗体が無い身体、花粉症にならない身体に戻ることができるかもしれないのです。
・臨床研究の内容(研究1)
大阪はびきの医療センターでは、スギ花粉米摂取による有効性と安全性を評価する試験を行っています。
研究1では、スギ花粉症患者さん45名を15人ずつ、スギ花粉米5グラム入りパック、20グラム入りパック、プラセボのみのパックの3つのグループにわけて、それぞれに2016年11月6日から2017年4月22日の24週間、連日パック米を摂取して頂きました。そして、症状日記を2月1日から4月30日の間つけて頂き、またスギ花粉特異的IgE抗体の推移をチェックするための血液検査を行いました。
3つのグループとも50グラムのお米をふかした100グラムのパック米
・臨床研究の内容(研究2)
また、研究1とは別の10名のスギ花粉症患者さんにスギ花粉米5グラム入りパック米を連日食べて頂き、昨年11月6日から今年の10月7日の48週間継続の予定でしたが、更に1年間食べ続けて頂くことになり、今も継続しています。
研究2では比較対照群を置いていないので、血液中のスギ花粉特異的IgE抗体が低下するかどうかを見ていきます。また食べ続けても問題ないか安全性も評価しています。
実はこの10人のうち2人の女性が妊娠判明で中止し、試験を継続できる人が8人となってしまいました。しかし、花粉米を食べることで症状が治まり妊娠しやすくなったのならうれしい限りです。
・摂取遵守率97%、アレルギー副作用もなし
このような治療法は患者さんが決められた手順通りに継続して食べて頂けるかが問題ですが、今回は97、98%の人がきちんと継続して食べてくれました。
有害事象は、数日で回復する副作用と、採血が原因によるしびれの3件のみでした。
・花粉症の予備軍を防げる
花粉米はT細胞に働きかけIgE抗体を減らす可能性があるので、すでに発症している人だけでなく、まだ花粉症が発症していない予備軍の人が食べると発症を予防することができるかもしれないのです。
・重症アレルギー制圧のために
また、重篤なアレルギーショックを起こすことがよくあるピーナッツアレルギーなどには舌下免疫療法は危険性を伴いますが、花粉米のように抗原ペプチド含有米(ピーナッツアレルギーでいえばピーナッツペプチド含有米)をつくることができれば、腸管免疫寛容がおこり、安全で有効的な根本的治療になるかもしれません。花粉米が成功すれば、他の重症アレルギーにも展開の可能性が広がります。
3.スギ花粉症緩和米は安全で有効性も~浅香先生
基調講演の2つめは、東京慈恵会医科大学・耳鼻咽喉科、浅香大也氏の「スギ花粉米(緩和米)の安全性、有効性について」のテーマのお話でした。浅香先生は以前行われたスギ花粉症緩和米の臨床研究にも携わっておられ、その結果を中心とした講演内容でした。その概要についてご紹介します。
・アレルギー疾患罹患率は増加傾向
東京慈恵会医科大学は10年に1回、東京都とアレルギー疾患に関する疫学調査を行っています。今年がその調査の年で、残念ながら本日、結果について述べることはできませんが、アレルギー疾患の罹患率は増加傾向にあるととらえて間違いないでしょう。
・アレルギー性鼻炎は回復しにくい
花粉症などのアレルギー性鼻炎の特徴は自然寛解しにくいことです。食物アレルギー、アトピー性皮膚炎、喘息などは、小さいころに罹患していても成長につれて自然に回復することもあるのですが、アレルギー性鼻炎は一度発症してしまうと、その後ずっと患ってしまうのです。そこで、アレルギー性鼻炎は、他のアレルギー疾患と分けて対応していなかくてはいけないと思っています。
・スギ花粉症緩和米とは
スギ花粉米には「緩和米」と「治療米」の2系統があり、効果、安全性、特長が異なります。
スギ花粉症緩和米には、スギ花粉の抗原部位の中から主要な7箇所を取り出して連結したぺプチド(7Crp)が蓄積されています。
スギ花粉症患者の慈恵医大の学生に協力してもらった結果が以下のグラフです。彼らのリンパ球を採り7Crpで刺激したところ、9割の人が反応を示しました。これは7Crpをスギ花粉抗原だと認識していることを示しています。一方、IgE抗体結合活性性をみると、ゼロです。すなわち7Crpでアレルギーは発症しない、安全だということです。
緩和米は遺伝子組換え技術を用いて7Crpをお米のプロテインボディⅠという顆粒に蓄積させます。プロテインボディⅠは胃で消化、吸収されにくい性質があるので、腸までとどき、腸管免疫寛容が起こるのです。
また、お米は一粒の中に大量のたんぱく質を生産することができるので、お米に7Crpの遺伝子を導入すると大量に発現します。従って、お米が少量でも効果が期待できるのです。
・H24、25年度の臨床研究概要
それまで現在の農研機構にてマウスや猿などの動物を対象とした緩和米の安全性・有効性の試験はなされてきましたが、人にを対象にしたものを慈恵医大にて初めておこないました。
平成24年に健常者を対象に4週間食べてもらいました。そして平成25年に、第二相臨床試験としてスギ花粉患者を対象に安全性の試験を行いました。安全性に問題はないと確認ができたので、有効性を確認するための臨床研究に移りました。
患者さんにはアレルギー日誌をつけてもらい、また定期的に血液検査を行いました。
その結果、有害事象としては、インフルエンザ、下痢、貧血、肝機能障害の5例で、どれも緩和米を食べ続けている間に回復したので、緩和米が原因による有害事象はないことがわかりました。
・緩和米は鼻症状を抑制傾向
一方、緩和米は鼻炎症状を抑制する傾向があることがわかりました。
下のグラフをみると、緩和米を食べている人の方が症状が抑制されています。ただし、花粉ピーク時だけをとりだし数学的処理を施すと有意差があらわれませんでした。これは症例数が少なかったことが要因だと考えています。
折れ線点線は花粉米摂取者、実戦はプラセボ米摂取者、棒グラフは花粉飛散量、縦軸は鼻炎症状スコア
・緩和米はアレルギー体質を改善
T細胞の増殖反応性については緩和米の有意差を確認できました。患者さんの採血を行ってT細胞を調べたところ、緩和米を食べている人は、プラセボ米の人と比べて、時間の経過とともに増殖反応性が抑えられていることがわかります。
・スギ花粉症治療米は高い効果を期待できる
もうひとつの花粉米、スギ花粉症治療米は、スギ花粉抗原のCry j1を分断化し、Cry j2をシャッフリングした全抗原エピトープを蓄積したお米です。改変されているものの全抗原が入っているので、より高い効果を期待できると考えられます。
治療米は高い効果が期待できる一方、アレルギー反応の副作用が起こらないか安全性の確認が求められます。
そこで、改変型全抗原エピトープが蓄積されているお米の顆粒「プロティンボティⅠ」を取り出してカプセルにし、健常者を対象に安全性の評価を行いました。その結果、有害事象は認められず、安全性には問題がないという結果を得られました。
よって、今後は治療米の花粉症患者に対する安全性、有効性を調べる臨床研究を検討しています。
慈恵医大ではスギ花粉症緩和米の臨床研究を昨年より継続して行っていますが、それに加えて治療米の臨床研究も行いエビデンスを構築したいと考えています。
➡花粉米セミナーレポート・パート2(後編)はこちら
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*記事中のスライド画像はセミナー資料より引用
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