花粉症の症状の根治・緩和に副作用が少ない「スギ花粉米」はスギ花粉症対策食品として実用化を【インタビュー】

花粉米 斎藤先生インタビュー

ごはんを食べてスギ花粉症の根治を目指す次世代型免疫療法「スギ花粉米」は、スギ花粉症に悩む人たちから早期に食品としての実用化が待たれています。東京慈恵会医科大学では昨年2016年12月から今年5月までの半年間でスギ花粉米の安全性や有効性に関する初年度の臨床研究を実施し、この10月からは2年目の研究が開始されました。

そこで、花粉症クエストでは、スギ花粉米の生みの親のひとりであり、スギ花粉米の安全性と有効性を調べる臨床研究を計画した、東京慈恵会医科大学・齋藤三郎教授にインタビューを実施し、臨床研究の最新状況、スギ花粉米のしくみや特長、またスギ花粉米誕生にいたるエピソードや齋藤先生が槍ヶ岳診療所で10年以上行っているボランティア活動のお話をお聞きしました。

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1.スギ花粉米臨床研究の最新状況

Q:昨年末から始まった臨床研究は5月で初年度の研究が終わりました。どのような結果だったのでしょうか?

今回の臨床研究では、30人のスギ花粉症患者の方を3つのグループに分けて、スギ花粉米20グラム、5グラム、0グラム(プラセボ米)が入っているパック米をそれぞれ半年間食べてもらいました。ダブルブラインド方式と呼ぶのですが、30人の患者の方も、研究を手掛ける我々医師の方も、どの人がどのタイプのパック米を食べているのか今でもわかりません。よって、研究チームの私も個々の患者さんのデータの解析結果を確認してはいないのですが、初年度の結果を俯瞰してみると、スギ花粉米が入っているパック米を食べても副作用を訴える患者さんは誰もいなかったこと、スギ花粉アレルゲンに対するT細胞の反応をみると免疫学的には効果が出ていることがわかります。鼻水やくしゃみといった臨床面での効果についてはこれから解析を行うところです。

Q:実際にスギ花粉米が入っているパック米を食べた患者さんたちはどんな感想でしたか?

市販のパック米はだいたい200グラムサイズですが、今回研究に使ったスギ花粉米入りパック米はその半分のサイズでした。それが毎日食べるのにちょうどよい量だと好評でした。味はふつうのごはんとまったく変わったところがなく、それどころか美味しいと言ってくださる患者さんもいたほどです。

パック米なので毎回電子レンジで温める必要があるのですが、その手間は一分間のチンですのでさほど苦にはならなかったようです。

やはり「ごはん」という形態がコメを主食とする日本人にはとてもマッチしていると再認識しました。

Q:臨床研究は2年計画と伺っていますが、最新の状況を教えてください。

10月から2年目の研究がスタートしました。1年目に研究に参加してくれた患者の方にこれから6か月間、1年目と同様にパック米を食べてもらいます。昨年の研究は12月からスタートしましたが、今年はスギ花粉飛散が少ない10月から始めることにしました。花粉飛散3ヶ月以上前から食べ始めるとより効果が得られることが判明しています。

Q:来年2018年3月末に2年目の経口摂取が終了することになるわけですが、今回の臨床研究の結果はどのように公表するのでしょうか?

おそらく来年の夏以降に研究の成果を論文や学会で発表します。一般の方にも結果を知っていただくために、マスコミにも結果を公開したいと考えています。

2.スギ花粉米とは

(1)スギ花粉米はどうして効くのか

Q:臨床研究では安全性が確認でき、また免疫学的な有効性がみられているとのことですが、スギ花粉米のメカニズムや特長について教えてください。

スギ花粉米はアレルゲン免疫療法(または減感作療法)とよばれる治療法です。体の最大の免疫機能は腸ですが、体が間違って異物と認識しているアレルゲンを口から食べて腸まで届けて、腸に「これは異物ではないよ」と誤解を解くようにしていくものが免疫療法です。

しかしこれまでの免疫療法では、アレルゲンそのものを経口摂取に用いるため、スギ花粉症の患者さんの中にはアレルギーショックのような副作用を起こすことがあります。そこで、スギ花粉症の発症に関連する一連の免疫機構の司令塔であるT細胞を標的にした改変型スギ花粉アレルゲンを開発しました。それが「7Crpペプチド」です。

花粉米 改変型ペプチド 7Crp

スギ花粉アレルゲンCry j1、Cry j2の中から7つのエピトープ(抗原)のみを連結

「7Crpペプチド」はスギ花粉アレルゲンの主要なペプチドを7つ連結したものです。アレルゲンの構造を改変したペプチドであるため、T細胞には効果があってもスギ花粉の特異的IgE抗体との結合性が著しく低下します。つまりこれらのお米を食べてもアレルギーショックなどの副作用が減少するのです。

(2)もうひとつのスギ花粉米「スギ花粉症治療米」とは

Q:現在の臨床研究に用いられているスギ花粉米は「7Crpペプチド」が蓄積されており「スギ花粉症緩和米」とも呼ばれていますが、それとは別に「スギ花粉症治療米」と呼ばれる種類もあると聞きます。その違いは何ですか?

「スギ花粉症緩和米」はアレルゲンの主要ペプチド7つだけを抽出したものなので安全性は高い。しかし患者さんの中にはそのアレルゲン主要ペプチドとは別のたんぱくに反応して花粉症を発症している人もいます。その人には「スギ花粉症緩和米」では効き目がありません。そこで、アレルゲンたんぱく全てを含んでいてもその並び方を変えて安全性を高めたペプチドを開発しました。それが「スギ花粉症治療米」です。

花粉米 改変型ペプチド 治療米

スギ花粉症治療米のアレルゲン改変構造のイメージ

これであれば理論的には全てのスギ花粉症患者の症状に効果があるといえます。私のイメージでは、スギ花粉が飛散していない時には予防目的や維持療法としてスギ花粉症治療米を食べ、花粉が飛散するシーズン中にはより安全性の高いスギ花粉症緩和米を食べる。そうすることで安全性と有効性の両方が成立する優れたスギ花粉症対策法になると考えています。

Q:スギ花粉症治療米はどういう研究段階なのでしょうか?

スギ花粉症治療米は現在基礎的解析を行っています。患者さんから採血して試験管の中でスギ花粉症治療米の安全性を調べるもので、それで人での安全性が確認できたら、スギ花粉症緩和米のように臨床研究に進みたいと考えています。

(3)スギ花粉米の優位性

Q:スギ花粉症に対する免疫療法には、すでに実用化されているものとして「舌下免疫療法」、臨床試験フェーズの「スギ花粉DNAワクチン」、臨床研究が行われた「スギ花粉カプセル」などがありますが、それらと比較してスギ花粉米の優位性はどんなところにありますか?

舌下免疫療法の薬はスギ花粉アレルゲンそのものを用いるため副作用は避けられません。スギ花粉DNDワクチンは皮下に注射するものですが、患者さんによっては注射に抵抗がある人もいる。またTh2のIgEを介した反応からTh1型(非アレルギー性反応)へとシフトさせるというメカニズムが本当に可能かどうか、まだわかりません。スギ花粉カプセルはその中にスギ花粉アレルゲンと多糖体の一種であるガラクトマンナンとの複合体が含まれるのですが、アレルゲン性が低下して有効性、投与量、副作用、コストなど課題があるように思います。

これらに対してスギ花粉米は、アレルゲンそのものでなく改変型ペプチドを用いているため安全性が高い。またごはんという食べ物の形態で摂取できるので患者さんのストレスが少ない。それからお米のたんぱく生産性の高さによるコストメリットです。

Q:「お米はたんぱく生産性が高い」とは、どういうことですか?

例えばスギ花粉アレルゲンたんぱくを購入するには、50μグラムで28,000円かかります。

一方、スギ花粉緩和米の1粒には改変型ペプチドが50μグラム入っていますので、1粒のお米が28,000円に等しいのです。言い換えると、米50粒で約1グラムですので、お米自身の力で1グラムのお米に140万円分(28,000円×50粒)の付加価値を生産することができるのです。コメ1合(約150グラム)で換算すると驚きです(*1)。どれだけお米のたんぱく生産性が高いかが、つまりは価格を抑えて製品化が可能であることがおわかりいただけると思います。

*1:1合に換算すると140万円×150グラムで2億1千万円

3.齋藤先生の素顔~スギ花粉米誕生に至るエピソード

(1)スギ花粉米研究のきっかけ

Q:スギ花粉米の安全性、有効性、そしてコストメリットが期待できることがよくわかりました。そもそも齋藤先生がスギ花粉米を研究する至ったきっかけは何だったのでしょうか?

私の専門はT細胞がどうやって免疫応答を調整しているのかを研究する免疫アレルギーの基礎研究であったため、同じ東京慈恵会医科大学の耳鼻咽喉科アレルギー班の先生方に一緒にスギ花粉症に対する免疫療法を研究しないかと誘われたことがきっかけです。1991年のことです。

それから副作用の少ない免疫療法としてアレルゲンを改変したペプチドを用いる「ペプチド療法」の開発をすすめました。改変型ペプチドを遺伝子組換えでお米に蓄積させる「スギ花粉米プロジェクト」が正式に始まったのが2004年でした。

Q:今回の臨床研究に至るにはずいぶん時間がかかったわけですね。その中で齋藤先生が印象に残っているエピソードは何かありますか?

スギ花粉米の人での臨床研究を始める前にニホンザルで臨床研究をしたときの感動は今でも忘れられません。スギ花粉米を食べたあるサルの免疫反応がまったくの正常にもどったのです。最初にその結果を見た時に、解析をしてくれた人に何か実験の間違いがあるのではと聞いたぐらい驚きました。

また、今回の臨床研究以前にも、2013年から2014年にかけて人での臨床研究を行ったのですが、免疫反応が8週間で抑えられたことがわかったときにもとても感動しました。お米のペプチド療法に対する自信につながりました。

(2)兄の死が医学の道へ

Q:齋藤先生は分子免疫学の第一人者ですが、いつからこの分野に興味を持ったのでしょうか?

高校一年生の時、当時18歳だった兄が交通事故で亡くなりました。連休中で病院に医師が不在だったことが原因でした。このとき医者になって人命を救いたいと思ったことが医学の道に入った動機です。私はもともと山登りが趣味で、入学した慈恵医大でも山岳部に入りました。山岳部の学生は体力がつくため外科を志望する人が多い。自分も外科医になるつもりでいました。ところが6年生のときに、その山岳部やOB会で前人未踏のヒマラヤ山脈登頂に挑戦することになり、周囲は失敗すると思っていたのにみごとに登頂に成功することができました。しかしこの件があって私の卒業が1年遅れてしまいました。すでに卒業に必要な単位などは取得していたので時間に余裕ができ、慶応大学で免疫学の師となる先生と出会いました。そして免疫学を研究し追及していくことにどこか山登りと相通じるものを感じ、臨床の道ではなく研究者の道を選びました。

慈恵医大ヒマラヤ登頂

右上写真の白い洋服の青年が大学時代の齋藤先生

(3)槍ヶ岳診療所ボランティア

Q:大学時代に山岳部員だったので、槍ヶ岳診療所のボランティアをなさっているのですね?

大学時代もそうですが、卒業後も山岳部OB会「慈恵医大山の会」に所属しました。今はその副会長をやっています。一般の人は山といえば富士山をあこがれますが、登山者にとっては槍ヶ岳です。その槍ヶ岳に1950年以来登山者の健康を見守る診療所を山岳部とOB会がボランティアで運営していますが、10年以上前から私はその診療所の管理者として毎年夏に入所してくれる医師30名と看護師35名前後のボランティアと一緒に活動をしています。この活動が口コミなどで広がり、今では慈恵医大出身以外の医師や看護師の方も参加してくれています。忙しい医療関係者が時間をやりくりして手弁当で活動に参加してくれるのは山の自然のすばらしさのおかげです。また診療所として施設を提供してくれる槍ヶ岳山荘のみなさんにも心から感謝しています。

4.おわりに~スギ花粉米は食品であるべき

Q:スギ花粉米は医薬品なのか、それとも食品なのか、という議論がありますが、どうお考えですか?

私はスギ花粉米を食品として世に提供するべきと考えています。

なぜなら、インシュリンのような動物細胞を使った遺伝子組換え医薬品と異なり、スギ花粉米はイネという植物に遺伝子組換えで有効成分を蓄積させるので精製する必要がありません。またコメを熱処理してパック米にしても有効性は変わりません。ごはんをそのまま食べて副作用もなく効果も得られるのです。そして食品であれば医薬品よりも低価格で提供できる。従って食品という形態で少しでも多くのスギ花粉症患者の方の症状根治や緩和に役立ててもらいたいと強く希望しています。

Q:パック米以外に実用化のアイデアはありますか?

スギ花粉症の親から生まれた子は遺伝的にスギ花粉症になる確率が高い。そこで予防投与として乳幼児にライスミルクを提供してはどうかと考えています。最近の研究では乳幼児にピーナツなどアレルゲンを含む食べ物を食べさせないよりも少量を与える方がアレルギーを発症しにくいという結果がでています。日本では4人に1人がスギ花粉症といわれる国民病ですので、子の世代がスギ花粉症に悩まなくてもいいように、スギ花粉米のような安全な対策法が求められていると思います。

Q:最後に、齋藤先生が今後挑戦したい研究テーマはどのようなものですか?

もちろんスギ花粉米はライフワークですのでこれからも実用化を目指して研究開発を続けます。

それ以外では、かゆみの抑制、染毛剤によるアレルギーの仕組みの解明、アトピー性皮膚炎の治療といったジャンルに興味をもっています。

Q:どれも多くの人が悩んでいる疾患で、研究開発や実用化が待たれる分野ですね。齋藤先生の活躍がますます期待されます。本日はためになるお話をどうもありがとうございました。

■齋藤三郎先生プロフィール

  • 1982年      東京慈恵会医科大学卒業
  • 1982年  慶応義塾大学大学院医学研究科博士課程微生物学専攻入学
  • 1986年    慶応義塾大学医学部 助手
  • 1986年    ハーバード大学医学部 リサーチフェロー
  • 1993年    東京慈恵会医科大学 講師
  • 1995年    東京慈恵会医科大学 DNA医学研究所分子免疫学研究部門 部門長
  • 2001年    東京慈恵会医科大学 助教授 分子免疫学研究部 部長
  • 2017年    東京慈恵会医科大学 教授

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