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増えている!子どもの花粉症・アレルギー性鼻炎の治し方を聞く(後編)~こすぎ耳鼻咽喉科クリニック・金井憲一院長インタビュー

花粉シーズンに向け、子どもの花粉症・アレルギー性鼻炎の治し方を聞く~こすぎ耳鼻咽喉科クリニック・金井憲一院長インタビュー(後編)

国民病ともいわれる花粉症ですが、花粉症に悩まされるのは大人だけでなく、小さい子どもまで。特にスギ花粉が原因の花粉症になる子どもは年々低年齢化し、その数は増えています。

そこで、花粉症クエストとNPO花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会の共同連載「名医が教える!花粉症の治し方」では、NPOの理事であり、こすぎ耳鼻咽喉科クリニック院長の金井憲一先生に、子どもの花粉症についてお話を伺いました。

そのうち、【前編】では「1.子どもの花粉症の特徴」や「2.風邪との見分け方」をご紹介しましたが、ここでは【後編】として「3.小児の鼻炎治療法」や「4.子どもの花粉症に役立つこと」をご紹介します。

前編】はこちらをクリック>

3.小児の鼻炎治療

  • Q:子どものアレルギー性鼻炎の治療方法を教えてください。

①検査

(金井先生)最初に鼻水の原因を検査で突き止めます。

アレルギー性鼻炎と診断するためのアレルギー検査には大きく分けて3つあります。

血液検査(RASTと呼ばれる血清中抗原特異的IgE抗体検査)あるいは皮膚テスト

鼻汁好酸球検査

鼻粘膜誘発試験

この3つのうち2つ以上が陽性であると、アレルギー性鼻炎と診断されますが、苦手なものを鼻先につける鼻粘膜誘発試験を行うことはほとんどありません。主に実施するのは血液検査で、鼻汁好酸球検査を行うこともあります。

●血液検査

(金井先生)子どもにはイムファストチェックという簡易的なセット検査をよく利用しています。それだと指先から微量の血液を採取するだけですし、約20分でその場で検査結果が出ます。

Point! 簡易的アレルギー検査

指からごくわずかに採血し専用の検査キットに垂らすと、約20分で結果がわかる簡易的なアレルギー検査セットがあります。

●イムファストチェック J1/J2

【検査可能なアレルゲン項目】

イムファストチェックJ1:スギ花粉・ヤケヒョウダニ・ネコ上皮

イムファストチェックJ2:卵白・牛乳・コムギ

(LSIメディエンス ホームページから引用)

●イムノキャップ ラピッド 鼻炎・喘息 Ⅰ

【検査可能なアレルゲン項目】

ヤケヒョウヒダニ、ゴキブリ、ネコ皮屑、イヌ皮屑、スギ、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギ

(ThermoFisher ホームページより引用)

●鼻汁好酸球検査

(金井先生)鼻の中を軽く拭くなどして鼻水を綿棒で少し集め、好酸球が発現しているか、出ていないかを試験するのが鼻汁好酸球検査です。

白血球の中にある好酸球はアレルギーの起こっている部位に集まってくることがわかっていますので、鼻汁好酸球検査で好酸球が認められるとアレルギー検査が陽性と判断されます。

②鼻処置やネブライザー治療

(金井先生)鼻処置は鼻水を吸引管で吸ってきれいにするなどの処置です。

ネブライザーとは鼻や喉の炎症を抑える薬を霧状にして放出する機器のことを指します。鼻の治療の場合には鼻の穴へ器具を軽く差し込みます。鼻の粘膜に直接薬剤を噴霧することによって、粘膜表面のアレルギー反応を抑えたり粘膜の腫れを抑える作用があります。

鼻処置やネプライザー治療は、医師がお子さんの症状を見ながら実施するか否かを判断しますので、必ずやるとは限りません。

ネブライザーの例

③薬物治療

(金井先生)子どもの花粉症などのアレルギー性鼻炎で処方する薬は、内服薬と点鼻薬です。また症状がひどい時には漢方薬も併用することがあります。目のかゆみも併発しているお子さんには抗ヒスタミン薬が入った点眼薬も処方します。

●内服薬

(金井先生)内服薬の種類には、抗ヒスタミン薬と抗ロイコトリエン薬があります。

抗ヒスタミン薬には大きく分けて、鎮静性と非鎮静性のタイプがあります。薬の成分の脳への移行率(*脳への入りやすさ)で基準があり、非鎮静性は脳内移行率が低いので、眠くなりにくい、インペアード・パフォーマンスを起こしにくいとされています。スギ花粉症のシーズンは受験や学期末テストの時期にあたるので、できるだけ眠くなりにくい、インペアード・パフォーマンスを起こしにくい薬を処方することが多いですね。患者さんによっては薬を飲んで眠気がなくてもインペアード・パフォーマンスを起こすこともあるので注意してください。

また、特にお子さんの場合には剤形の飲みやすさを考えて薬を選択します。

抗ロイコトリエン薬は鼻づまりを抑制する薬です。鼻づまりがあるお子さんには抗ヒスタミン薬と一緒に処方します。

そして、症状がひどい場合には漢方薬の小青竜湯も併用してもらうことがあります。

Point! インペアード・パフォーマンスとは

抗ヒスタミン薬を服用すると眠気とは別に集中力や判断力、作業能率が低下することがあります。 これは抗ヒスタミン薬の副作用のひとつで「インペアード・パフォーマンス」と呼ばれています。 インペアード・パフォーマンスの起こる要因の一つに抗ヒスタミン薬がもつ鎮静作用(*神経系の過活動を抑制する効果)があげられます。
脳の神経は覚醒して興奮するとヒスタミンを放出し大脳皮質を活性化します。一方、抗ヒスタミン薬の鎮静作用は抗ヒスタミン薬が脳内ヒスタミン受容体を占拠する(*ブロックする)ことで発現します。ヒスタミン受容体が多く占拠されると脳の働きが鈍くなりインペアード・パフォーマンスが起こりやすくなります。このヒスタミン受容体占拠率は抗ヒスタミン薬ごとに異なっており、受容体占拠率によって「非鎮静性=インペアード・パフォーマンスになりにくい」と「鎮静性=インペアード・パフォーマンスになりやすい」 に大きく分類することができます。

抗ヒスタミン薬は開発された年代で第1世代、第2世代と呼ばれますが、第1世代や第2世代でも前期に開発された薬は鎮静性で、第2世代後期の薬は非鎮静性です。

●点鼻薬

(金井先生)ステロイド剤が入った点鼻薬もよく処方します。症状を強く抑え、作用時間が長く、眠くならないのが特長です。

●市販薬

(金井先生)小児にも使えるアレルギー性鼻炎向けの市販薬もあります。第2世代後期の抗ヒスタミン薬もドラッグストアなどで購入することができます。保険が適用される処方薬と比較して価格がややや高めですが、これらも上手に活用するといいと思います。

④アレルゲン免疫療法

(金井先生)薬による治療はあくまでも対症療法ですので、根本的に治すためにはアレルゲン免疫療法(*)があります。

(*)患者さんにアレルギーの原因となる物質を少量ずつ投与し、免疫が過剰に反応しないように免疫寛容を誘導することを目標とした治療法

●スギ花粉症向け舌下免疫療法

(金井先生)2018年6月には、スギ花粉症向けの舌下免疫療法に新薬「シダキュア舌下錠」が発売されました。シダキュアには年齢制限はありませんが、試験データがあるのが5歳以上なので、一般的には5歳以上に適用されています。「111」と覚える「1日、1回、1錠1分」ができるお子さんでしたら何歳でも大丈夫なのですが、5歳未満のお子さんは副反応の症状などを正確に話すことが難しいので、5歳以上がふさわしいと考えられています。

以前からある「シダトレン舌下液」は12歳以上に適用されます。シダトレンであれば治療安定期に入ると1か月ごとの受診で1ヶ月分の薬を処方できますが、シダキュアは発売されてまだ1年未満なので、2週間ごとの受診で2週間分の薬しか処方できません。来年5月になればシダキュアも1か月分の処方が可能になりますし、薬の保存も室温ですみますので、おそらく大人も子どもも来年以降はシダキュアがメインになっていくものと思います。(*)

(*)(2021年1月24日)追記:2019年5月よりシダキュアは長期処方が可能になりました。2021年3月末をもって、シダトレンは販売終了となり、シダキュアに一本化されます。

●ダニアレルギーの舌下免疫療法

(金井先生)ダニアレルギー向けにも舌下免疫療法があります。「アシテア」(シオノギ製薬)「ミティキュア」(鳥居薬品)の2種類の薬があり、年齢制限はありませんが、スギ花粉向けと同様に事実上5歳以上に適用されています。

ダニ向けの免疫療法で注意しておく必要があるのは、通年性アレルギーなので治療の効果を感じることが難しい点です。スギ花粉であれば花粉シーズンにそれまでの治療の効果を「試験」しその結果を実感することができるのですが、ダニの場合は常にアレルゲンに曝露され治療中に症状変化が少しずつ出るため、明確に効果を感じられないことがあるようです。

●皮下免疫療法

(金井先生)ブタクサやカモガヤなどが原因のアレルギーの場合には、注射による皮下免疫療法があります。ただし、一部の病院しかこの治療を行っておらず、とりわけ子ども向けには一般的な治療にはなっていません。

⑤手術療法

(金井先生)薬で治らない鼻づまりには、子どもでもレーザーなどの手術治療を行うことがあります。レーザー治療を行うためには、内視鏡が鼻に入ることや、両方の鼻で10~15分程度かかる治療の間動かないでじっとしていられるお子さんであることが条件です。

ただし、レーザー治療をしても鼻の粘膜が再生するとまた症状が再発してしまうので、長期的な治療と考えずに、ひどい鼻づまりを応急処置するようなものだととらえてください。

⑥初期療法

(金井先生)スギやヒノキが原因の花粉症の場合には、初期療法(*症状が発症したりひどくなる前に治療を始めること)をおすすめします。お子さんの場合、花粉が飛び始める直前の2月前半から主に点鼻薬を使って治療を開始してもらいます。点鼻薬であれば眠くなりませんし、保護者の方がしてあげることができるので、薬を飲みこむのが苦手な小さい子どもでも楽にできます。

4.花粉症の子どもに役立つこと

  • Q:子どもの花粉症を予防する方法を教えてください。

(金井先生)花粉シーズンには外出時にマスクやメガネをすることが基本です。衣類は表面が化繊のようなツルツルしたものを選んでください。草の花粉症のお子さんは、花粉飛散時期にはできるだけ原因物質に近づかない方がいいですね。玄関に入る前に体に着いた花粉を払って、うがいや手洗いを忘れずにさせてください。

スギやヒノキの花粉シーズンは家の中まで花粉が入り込みますので、窓をできるだけ開けないようにしたり、掃除をこまめに行ってください。洗濯物は花粉の多い日には外干しを避けてください。

  • Q:親が花粉症の場合、子どもにも遺伝しますか。

(金井先生)親がアトピー性皮膚炎や喘息の場合、子どももアレルギーになりやすいという研究報告があります。特に母親がアレルギー体質だと遺伝しやすいようです。あくまでリスクでしかありませんが、まだ子どもが発症していない場合にはお子さんの状態を気にかけておくといいかもしれません。

  • Q:子どもが花粉症の場合、特に注意することは何ですか?

(金井先生)受験や勉強に支障しないように早めに治療をすることです。毎シーズン初期療法を行ったり、受験が2、3年後に控えているのであれば今から舌下免疫療法を始めてみるとよいと思います。

薬は副作用の眠気が少ないもの、インペアード・パフォーマンスを起こしにくいものを選んでください。花粉症で成績が下がる上に鎮静性の薬を服用すると更に成績が下がった、しかし非鎮静性の薬を使用していると健常児と成績はほぼ変わらなかったという調査結果が報告されています。

そのためにも、どうしたらいいかなと悩んだら、病院に来てみてください。先ほどお話したように小さいお子さんでも舌下免疫療法ができるようになるなど、治療の幅が広がっていますので、その子の症状や生活環境に合わせた治療法を選択できます。市販薬を利用する場合でも、一度医師に相談した上で使用する方が安心ですからね。

Q:金井先生、貴重なお話をありがとうございました!

【金井憲一先生のプロフィール】
  • 昭和61年 都立日比谷高校卒業
  • 平成6年 山梨医科大学(現山梨大学医学部)卒
  • 平成6年 昭和大学病院 耳鼻咽喉科 入局
  • 平成20年 昭和大学病院 耳鼻咽喉科 医局長
  • 平成21年 昭和大学藤が丘病院 耳鼻咽喉科 准教授
  • 平成26年 こすぎ耳鼻咽喉科クリニック 院長
  • 医療法人翔和仁誠会 理事
  • 昭和大学藤が丘病院耳鼻咽喉科 兼任講師
  • NPO花粉症・鼻副鼻腔炎治療推進会 理事

(こすぎ耳鼻咽喉科クリニックのホームページはこちら http://kosugi.sho-jin.com/